テンパリングは何のため?テンパリングの仕組みをゼロから解説

こんにちは、ミテキです。今回はチョコレートのテンパリングについて、科学知識がまったくない!という方にもわかるように解説していきます。

チョコレートのテンパリングの仕組みはガッツリ食品科学の分野ですので、本気で理解しようとすると難しいところがあります。

この記事では科学的な専門用語をなるべく使わず、テンパリングの仕組みを感覚的に理解できるように書いていきます。

※この記事はテンパリングのコツややり方ではなく、あくまで「何のためにテンパリングをするの?」、「チョコレート検定を受けたいけど、テンパリングの仕組みがわからない」という方のための記事となります(とはいえ、理解すればテンパリングの方法も覚えやすくなるとは思います!)。

チョコレートをテンパリングするメリットと方法

まず最初に、チョコレートのテンパリングで得られるメリットとその方法をざっと確認します。これらを踏まえて、テンパリングの仕組みを見ていきましょう。

チョコレートをテンパリングするメリット
  1. 口どけがよくなる
  2. チョコレートの表面にツヤが出る
  3. パキッと割れ、型から剥がれやすい
  4. ファットブルーム(表面が白くなる現象)が出にくい
チョコレートのテンパリング方法
  1. チョコレートを50度程度まで熱する
  2. 温度を27〜29度まで下げる
  3. 温度を31〜32度まで上げる
  4. 冷蔵庫で冷やし固める

以上が、一般的に言われているチョコレートのテンパリングを行うメリットとその方法です。確認しただけなので、この時点ではよくわからなくても大丈夫です。

では、テンパリングをするとなぜこんなメリットがあるのか? その仕組みを解説していきます!

チョコレートが固まるときの形とテンパリングの正体

ココアバターがとけた液体のチョコレートと、ココアバターが固まった固体のチョコレート

私たちの知るチョコレートは、日本の常温では固まった状態です(固体)。これは、チョコレートに含まれているココアバターが固まっているから。このココアバターは油脂、要するに油です。

実は、油が液体から固まって固体になるとき、目に見えない部分はいろんな形になる可能性があります。

固まるときの条件によって、同じ油でもいろんなパターンの結晶(カタマリ)になるのです(これを多形現象といいます。チョコレート検定受験者の方は覚えておいてもいいかもしれません)。

同じココアバターからできたチョコレートでも、ズームすると内部の構造が違うことがある

ちょっとややこしいので、見た目は同じ油でも、見えないくらい小さいところで違う形をしていることがあるんだなくらいで大丈夫です!

ココアバターの結晶の1〜6型のとけだす温度一覧

こんなふうに、ココアバターは1〜6型までのパターンで固まります。やんわり手をつないでいるパターンから、ぎゅっと身を寄せ合っているパターンまでさまざまです。

そして、固まったときのパターン(型)によって、とけやすさ(融点)や性質が異なるのです。

つながりがゆるやかな順に名前がついています。数字が小さいほどゆるいつながりなのでとけやすく、数字がもっとも大きい6型はぎゅっと固まってなかなかとけません

ココアバターの結晶はローマ数字(Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ, Ⅳ, Ⅴ, Ⅵ)で表すのが一般的ですが、この記事では感覚的に読みやすくするため1〜6で表記しています。

テンパリングはチョコレートを5型の結晶だけで固める作業

テンパリングのメリット(再掲)

ここまでの知識でチョコレートのテンパリングを説明すると、「テンパリングとは、チョコレートを5型の結晶だけで固める作業」となります。「どうして5型なのか?」はもう少しあとで説明するので、テンパリングをしなかったチョコレートが固まる流れをみていきます。

チョコレートをテンパリングせずにとかして固めて作っていると、それぞれ自由に固まった結果、とけやすいパターン(1〜4型)ができてしまいます。1〜4型の結晶でできたチョコレートは比較的低い温度でとけ、チョコレートを食べようと手で掴んだとき、すぐにとけてベッタベタになってしまいます。

そして、とけやすい1〜4型でチョコレートを放置していると、「きちんと固まらないと!」と、6型に近づこうとしてしまいます。

このような他のものに変わりやすい1〜4型のことを不安定な形、勝手には他のものに変わらない5型と6型のことを安定な形と呼びます。

安定・不安定というのは化学用語ですが、おおむね「物質は不安定なのがイヤで安定に向かおうとする」と考えて問題ありません。

どんな形・どんな条件で「安定」なのかは、物質によってまったく異なります。

ここで安定である5型に勝手に移行してくれれば万々歳なのですが、厄介なことに、不安定な子たちは6型に移行してしまいます

6型は安定ですがとけだす温度が高く、口の中でうまくとけてくれずにボソボソっとした食感になってしまうのです。

これらのような事態を避けるため、テンパリングを行ってチョコレートを5型だけで固めていきます。

5型は安定しているので勝手に6型になることもありませんし、ぎゅっと整列して固まっているのでチョコレートの見た目もきれいでツヤが出ます。何より口の中の温度より少し低いぐらいでとけだすため、手で触ってもすぐにはとけず、口の中でなめらかにとろけるチョコレートが実現できます。

ファットブルームとは何か

また、テンパリングのメリットとしてファットブルーム(表面が白くなる現象)が出にくくなる、と書きました。ファットブルームは、不安定な結晶が混ざったチョコレートなどで発生します。

チョコレートの結晶が不安定でうまく整列できなかった結果、表面が人間の目ではわかならいくらいにデコボコします。そうすると、チョコレートの表面ですべての光がいろんな方向に反射するので(乱反射)、人間の目には表面が白っぽく見えてしまいます。

これがファットブルームです。健康上は問題ありませんが、品質が劣るため敬遠されます。

ちょっとだけ乱反射の説明をするので、もしも気になった方は読んでみてください。

実は乱反射はとても身近な現象で、「氷は透明だが、かき氷は白っぽい理由」が例としてよく挙げられます。

そもそも、物体にぶつかって跳ね返ってきた光が目に届くことで、私たちは物体とその色を認識できています。たとえば赤い物体というのは、「赤い光を跳ね返し、それ以外の色は吸収する物体」ということ。物体は色を吸収したり跳ね返したりして、自身の色を教えてくれています。

ファットブルームやかき氷のような場合、光は物体に吸収される前にデコボコな表面で跳ね返っています。光の三原色(RGB)を知っている方は思い出して欲しいのですが、すべての色が混ざった光は白くなりますね。

この、どの色も吸収されていない(= 全色混ざった状態の)白い光が多く目に届いているから、私たちには白っぽく見えるのです。

乱反射についての参考:

コカねっと! / ジャパンセンサー株式会社 / NGKサイエンスサイト

表面が白くなる現象は、テンパリングをせずに固めた時(夏場にとけたチョコレートを冷蔵庫で固めるなど)以外にも、チョコレートに入っている砂糖などの粒が大きすぎたときにも発生します。原理は同じで、粒が大きくて表面がデコボコになって光を乱反射してしまうからです。

ここまでの情報を使って、5型の結晶だけで固めるメリットをまとめてみました。

  1. 口どけがよくなる → 口の中でとけだす5型の結晶だけを残しているから
  2. チョコレートの表面にツヤが出る → 表面も安定した形で整列しているから
  3. パキッと割れ、型から剥がれやすい → ぎゅっとしっかり固まることで、適切なかたさになるから
  4. ファットブルーム(表面が白くなる現象)が出にくい → ツヤと同じで、きれいに整列しているから

どうでしょうか?最初に挙げたテンパリングのメリットと対応させてみると、理由がわかるようになったかと思います。

チョコレートのテンパリングの仕組み

テンパリングの必要性がわかったところで、どうやってチョコレートを5型で固めるのか、一般的なテンパリングの手順にのっとって解説していきます。

なお、以降の手順における温度は本・製品などによって少しずつ異なりますが、今回はチョコレート検定公式テキストの温度で記入していきます(ダークチョコレート用の温度です)。

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テンパリング手順1:チョコレートを50〜55度に熱する

テンパリングの手順1

まずは作業しやすくするため、固形のチョコレートに含まれている結晶をすべてとかしてしまいます。そのため、チョコレートを50度〜55度くらいにします。40度くらいにしている本もあり、すべての結晶がとけて扱いやすくなれば良いようです。

6型がとけだす温度(36.3度)よりも高いので、この時点ですべての結晶がとけているはずです。

※なお、6型は以降のテンパリング中には発生しませんので、説明を省略します。6型はかなり強固なつながりを持つ、発生しにくい形です。5型を作ることを目的としているテンパリングでは、生まれないと思ってもらって大丈夫です。

テンパリング手順2:27〜29度まで下げる

テンパリングの手順2

次はチョコレートの温度を27〜29度まで下げます。不安定な3型がとける25.5度よりも高いため、1〜3の結晶は基本的には発生していません(一部3型も含まれるようです)。

ここでは、5型よりも発生しやすい、不安定な4型を含むチョコレート生地ができています。この時点でチョコレートは液状ですが、目に見えないくらいの大きさの結晶が含まれているのです。

この段階で5型が発生しているとする本もあるのですが、本記事では『チョコレート検定公式テキスト』、『チョコレートの科学』および『チョコレート カカオの知識と製造技術』等にのっとり、5型は次の手順で発生するものとして扱っています。

テンパリング手順3:31〜32度まで上げる

テンパリングの手順3

次はチョコレートの温度を31〜32度まで上げることで、混ざっていた4型をとかしてしまいます。すると5型の結晶が生まれ、他はとけているので、5型の結晶だけになったチョコレート生地ができあがります!

どうしてわざわざ温度を下げてから上げるのか?

さて、ここで、「27〜29度にする工程(前の手順)を飛ばして、最初から31〜32度に下げればよかったのでは?」と思う方もいるかもしれません。最終的にとかしてしまうのに、わざわざ一度不安定な4型が混ざる温度まで下げるのは不思議ですよね。

その理由は、「5型をうまく発生させるため」です。先ほど「6型は強固で、発生に時間がかかる」と言いましたが、5型も発生するのにそこそこ時間がかかります。自然発生を待っていてはチョコレートを作るのが大変ですので、テンパリングによってすぐに発生させようとしているのです。

そこでなぜ4型をわざわざ発生させることにつながるのか? というと、実は、4型などの不安定な結晶には「とけるタイミングで、安定な結晶の発生を早める」というパワーがあります(覚えなくて大丈夫ですが、融液媒介転移(ゆうえきばいかいてんい)と言います)。

このパワーを利用し、一度不安定な4型を発生させてからとかすことで、本来なら発生に時間がかかる5型を早く作り出しているのです。そして、5型よりも発生しにくい6型はこの時点では発生しません。

これで、やっと5型の結晶しかないチョコレート生地ができました。

ここでいうパワーこと融液媒介転移は、いまだに「どんな仕組みで発生させているのか」、「なぜ冷やして固めるより早く安定な結晶ができるのか」はよくわかっていないそうです。

参考:「チョコレートのおいしい物理学」https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2016/11/71-11_mijika.pdf

テンパリング手順4:冷蔵庫などで固める

テンパリングの手順4

めでたく5型結晶だけを持つチョコレート生地ができたので、テンパリングの最後に冷蔵庫で冷やし固めます。

まだ結晶になっていない液状のチョコレート部分は、安定な5型につられて、同じように手をつないで整列していきます。

自然にさせておくと5型はなかなかできない形ですが、これまでのテンパリングで発生させた5型を「核」にすることで、ほかのチョコレートたちも真似できるようになるのです。

5型の「核」さえあれば、まだ結晶になっていないチョコレートたちも真似できる。

……ということは、わざわざ温度を下げて4型から作らなくても、「5型の結晶を加えてやればいいのでは」と思った鋭い方もいらっしゃるかもしれません。

これはそのとおりで、手順2で温度を下げるのをすっ飛ばし、5型の結晶(= テンパリングされた固形チョコレートの粉末、あるいは砂糖などが添加されていないココアパウダー)を「核」として加えるテンパリング方法もあります。

このような手法を種結晶添加法といい、テンパリング用の機械がない小規模なお店などで使用されているようです。

全員が5型に整列し、チョコレートが固まったらテンパリングは完了です。お疲れさまでした!

テンパリングの仕組みまとめ

画像提供:ぱくたそ

長い文章でしたが、お読みいただきありがとうございました。チョコレートのテンパリングの仕組みはおおよそ以上のようになっています。

今回は「テンパリングって結局何してるの?」状態だった過去の自分にもわかりやすいように心がけ、かなり噛み砕いた解説になったかと思います。

それでも科学的な部分を省略したところもありますので、もっと深く知りたい! という方は、チョコレートに関する本を見てみることをおすすめします!

<参考文献>

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