『史料でみる 和菓子とくらし』大好きな本紹介

こんにちは!今回は、私の大好きな本『史料でみる 和菓子とくらし』をご紹介します。

情報が興味深いのはもちろん、純粋に読み物としても楽しい本です。和菓子好きにも歴史好きにもおすすめです!

『史料でみる 和菓子とくらし』はどんな本か

『史料でみる 和菓子とくらし』の表紙写真
阿部美樹子さんによるブックデザインもかわいい

『史料でみる 和菓子とくらし』
今村規子 著(虎屋文庫 協力)
淡交社(2022年)

こちらは和の月刊誌『なごみ』の連載を再編集したもの。
著者の今村規子さんは虎屋文庫に2020年まで勤め、機関誌『和菓子』にも携わっていた方。虎屋文庫は、羊羹などが有名な老舗「とらや」(株式会社虎屋)の資料室です。

本著は、基本的な和菓子の歴史を概観する本ではありません。12のテーマに沿って、それぞれの章で史料を見ていくスタイルです。

『史料でみる 和菓子とくらし』の帯に書いてあるテーマ一覧
章のあいだの「和菓子トリビア」もおもしろいです

時代の流れや背景を追いながら、過去の史料をひもといていきます。菓子名やお店のルーツをたどったり、現在と同じもの・違うものを並べたり、当時の味を想像したり……。

その見事な手腕は名探偵さながら。興味深く読みながら、これまでにどれだけの史料を読み込んできたのかと感じずにはいられない一冊です。

『和菓子とくらし』おすすめポイント

まなざしのあたたかさ

本著の特に好きなところは、史料に向き合う視線があたたかいところ。今村さんのまなざしを通して読むと、ただの知識や情報ではなく「そこに生きていた人たち」の生活が見えてきます。
アカデミックな内容でありながら冷たさがなく、今村さんと一緒に楽しく読み進められる一冊です。

たとえば以下は、本著「おわりに」の文章。この喜びが、本全体のあたたかさを作っているんだなあと感じます。

「昔の人々の菓子に対する愛着を感じることは、史料を読み解く喜びの一つです。時代を超えて甘党の仲間を見付けたような気持ちになることも少なくありません。」
(『史料でみる 和菓子とくらし』「おわりに」より)

また、本著にはたびたび「無名の人たち」の存在がでてきます。今村さんは特別なお菓子だけではなく、「無名の人たち」の「ふだんのお菓子」のことも見つめているのだと思います。
そういう忘れられがちな日常を切り捨てないで慈しむようすも、この本の雰囲気につながっているのかもしれません。

テーマや切り口のおもしろさ

ちょっとめずらしいテーマや切り口が多いこともイチオシポイント。さらに定番テーマでも、観点が「和菓子そのもの」より「和菓子を通じて見る人々」なので、ひとあじ違った視点から史料を見ることができます。まさに「和菓子とくらし」の本なのですね。

たとえば第1章のテーマは「大小」。江戸時代の暦、今でいうとカレンダーのような立ち位置でしょうか。シャレの効いた和菓子モチーフのものを見ていくのですが、そのバリエーションの豊かなこと!当時どれだけ和菓子が身近だったかがよくわかります。

「菓子袋」がテーマの章も。和菓子そのものの話を見ることが多いですが、なるほど確かにその「袋」もあったはずだ、と感嘆しました。しかも、「菓子袋でそんなに話があるのか」と驚くほどの史料量なんです!
私は読後から浮世絵を見るたび、つい「菓子袋ないかな……」と観察してしまいます。

たとえばこちらは『江戸名所図会』より、本著で紹介されている「目黒飴」。飴を菓子袋に詰めているところが2か所描かれています。ぜひ探してみてください。

『江戸名所図会』より「目黒飴」の浮世絵。人気の飴屋が賑わうようす。
『江戸名所図會』(味の素食の文化センター所蔵)、画像部分のみ切り抜き
撮影:国文研/出典:国書データベース/ライセンス:CC BY-SA 4.0

今村さんご自身は「細かなことを面白がり過ぎて迷走しがち」と書かれていましたが、その気質もこの本の楽しさを生み出しているのだろうと思います。苦心してテーマを絞った、とも書かれていましたので、惜しくも選外となった話もどこかで書いていただけたりしないものか、と密かに願っています。

索引がある

いきなり実用面の話ですが、どうしても言いたかったので入れました。索引は本当にありがたいです。しかも「菓子・菓子屋名」「人名」「史料名」で分かれているという丁寧さ!

目次もありますが、やはり索引があると便利さが段違いです。別の本を読んだときなど「この話、あの本で見た気がする」とぼんやりした記憶をたどっていくと、索引なしでは探すのにすごく時間がかかってしまうんですよね。今村さん、編集者の方々、ありがとうございます……!

初心者の方にも、和菓子本好きの方にも

『和菓子とくらし』のカバー裏に和菓子のイラストが並んでいるところ
カバー裏もかわいい

今村さんの雰囲気があたたかいことはすでに述べましたが、本著は文章自体もやさしく丁寧カラーの図版もたくさんあります。初めて歴史資料本を読む方にもおすすめです。

また、基本的に和菓子そのものを解説する本ではありませんが、専門用語や馴染みの薄そうな和菓子のことは説明してくれています。そのため、和菓子に詳しくない方でも問題なく読めると思います。

もちろん、和菓子には少し詳しいという方にも!すでに述べたとおり、一般的な和菓子の本とはまた違った切り口で、いっそう和菓子文化を身近に感じる構成になっています。

さらに、やさしい語り口ながら情報量はとても多いです。これも個人的にはすごく嬉しいところ!今村さんの感想なども交えつつも、みっちりと史料の話がなされています。
読後の満足感もありますし、多くの方は「知らなかった」に出会えるのではないでしょうか。

参考文献もぜひ

参考文献の一覧も豪華なんです!論文や機関誌もありますが、入手しやすい一般書籍、手軽な参考サイトも充実しています。
本著で和菓子にさらに興味を持った方におすすめで、かつ見つけやすそうな本を一部ご紹介します。

『図説 和菓子の歴史』(ちくま学芸文庫、2017年)

和菓子の歴史をもっと知りたくなった方には、青木直己さんの『図説 和菓子の歴史』がおすすめ。古代から江戸時代まで、和菓子文化の歩みを俯瞰できます。文庫本で手に取りやすく、読み物として気軽に読めると思います。

『和菓子を愛した人たち』(山川出版社、2017年)

「和菓子と人との関わりがおもしろかった」という方には、虎屋文庫の『和菓子を愛した人たち』を推したいです。歴史上の人物100人と和菓子の話が詰まった圧巻の一冊。カラーで写真も多く、好きなところから読みやすい構成もおすすめポイントです。

『事典 和菓子の世界(増補改訂版)』(岩波書店、2018年)

とにかくたくさんの和菓子を知りたい方には、中山圭子さんの『事典 和菓子の世界』をぜひ。和菓子やモチーフそれぞれに丁寧な解説がついていて、通読するもよし、辞書として置いておくもよしの頼れる本。イラストが多く、カラーなのも嬉しいです。

おわりに

最後は、この本の雰囲気を特に表していると感じる部分の引用で終わりたいと思います。ぜひみなさんも、和菓子とくらしの世界を一緒に楽しみましょう!

「菓子を通して眺める昔の暮らしは、なんだか楽しげな雰囲気にあふれていて、調べるほどに世界は甘党で満ちていると思えてなりません。」
「美味しいだけではなく人を幸せにする存在であった「和菓子」の愛されぶりを、一緒に楽しんでいただければと願っています。」
(『史料でみる 和菓子とくらし』「はじめに」より)

史料でみる 和菓子とくらし (楽天ブックスへ)

完全に余談

本著でキュンと来たお団子の写真をご紹介したかったのですが、現物の入手が難しかったため、AIに画像を作ってみてもらいました。

「犬の子まき」でまかれるお餅のイラスト

本物は「犬の子まき」で検索してみてください。かわいいです。